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2026.07.10

  • 傷跡
吉田 直樹

豊胸手術を考える方へ

はじめに:脂肪注入とシリコンバッグ、選択のための医学的知識

豊胸手術は大きく「脂肪注入」と「シリコンバッグ挿入」の2種類に分けられます。どちらも美容外科の領域で広く行われている術式ですが、適応となる体型・希望するボリュームアップの幅・リスクの種類がそれぞれ異なります。

それぞれの特性:脂肪注入・シリコンバッグの特性

脂肪注入の最大の課題のひとつが生着率です。2023年のシステマティックレビュー・メタ解析では、脂肪生着率は約54%(95%信頼区間:48.5〜59.5%)と報告されており、注入した脂肪のおよそ半量が長期的に残存するとされています。

また、術後1年での患者満足度は平均約92%との報告もある一方、施設・術者・個人の体質によって大きく結果が異なる点に注意が必要です。

ボリュームの限界については、一度に注入できる量には安全上の制約があり、1回の手術で得られる増大効果は一般的に1カップ未満〜1カップ程度とされることが多いです。そのため、希望のサイズや形には複数回の施術が必要になる場合があります。

シリコンバッグは現在、コヒーシブシリコンジェル(粘着性シリコンジェル)を用いたインプラントが主流であり、破損時のジェル拡散リスクが以前の製品より低減されました。サイズ・形状(ラウンド型・アナトミカル型)を幅広く選択できるため、ボリューム感を大きく変えたい方には適応が広くなります。

ただし、後述するように長期経過での再手術(被膜拘縮・インプラント交換等)が必要になるリスクがあります。

適応となる患者像

脂肪注入が向いている方
・採取できる皮下脂肪量が十分ある
・異物感や異物に対する抵抗感が強い
・自然な仕上がりを優先し、ボリュームアップ幅は小〜中程度で構わない
・脂肪吸引部の痩身も同時に希望する

シリコンバッグが向いている方
・採取できる皮下脂肪が少ない(痩せ型、トレーニーの方)
・確実なサイズアップ、形の変化を希望する
・乳腺・皮下組織が薄く、脂肪注入だけでは十分な効果が得られにくい

手術方法の概要

脂肪注入の手術方法

① 脂肪採取(吸引部位)
注入用の脂肪を大腿・腹部・腰部・二の腕・ふくらはぎなどから脂肪吸引で採取します。採取部位は個々の体型と採取できる脂肪量によって選択されます。

② 注入脂肪の精製
採取した脂肪から血液・壊死組織・局所麻酔薬成分などを除去します。主な精製法は「遠心分離法」「洗浄ろ過法」「静置法」などがあり、どの方法の生着率が最も高いかは様々な結果が報告されておりますが、結論は出ていません。

③ 注入層
細い注入用のカニューレを用いて、乳腺下・大胸筋内・大胸筋下・皮下など、複数の層に細かく分散して注入することで脂肪の生着を高め、術後のリスクを低減させるとされています。一か所への大量注入は脂肪壊死やしこり生成リスクを高めると考えられています。

シリコンバッグ挿入の手術方法

① 切開位置(アプローチ)
<切開位置 特徴>
乳房下溝 (バージスライン)
・野の視認性が高く、精密な操作が可能
・乳房下縁に傷ができるが、下胸で傷が隠れるため目立ちにくい
・下着等で隠れることが多い

腋窩(脇)
・乳房に傷跡が残らないため日本で人気
・剥離が大きすぎると術後にバッグが上方に上がるリスクがある
・バッグ留置部位まで距離があるため、視認性が悪く内視鏡が必要な場合もある
・乳輪周囲傷跡が乳輪の境界に沿い目立ちにくいが、被膜拘縮率が他の切開部位よりもやや高い
・乳頭感覚への影響リスクが他部位よりも高い

② バッグの留置部位(ポケット)
<ポケット 特徴>
乳腺下法
・乳腺と大胸筋の間に挿入
・回復が比較的早く自然な乳房の動きが出やすいが、乳腺が薄い場合はシリコンバッグの輪郭が目立ちやすい

大胸筋下法
・大胸筋の下に挿入
・インプラントが筋肉に覆われるため薄い乳腺でも輪郭が目立ちにくい
・被膜拘縮リスクが低いとされる報告がある一方、大胸筋を使う運動で形が変わる「アニメーション変形」が生じるリスクがあり、現在はほとんど行われていない

デュアルプレーン法
・上部を大胸筋下、下部を乳腺下に配置するハイブリッド手法
・インプラントの自然な動きと筋肉による被覆を両立することが目指されており、乳腺下垂のある症例にも適応しやすい
・ダウンタイムが乳腺下法と比べて長い

それぞれのメリット

脂肪注入のメリット
・自組織のため異物感がなく、触感・動きが自然になりやすい
・脂肪吸引部の痩身効果を同時に得られる
・乳頭感覚への影響が少ない

シリコンバッグのメリット
・望むサイズ・形状を選択できる幅が広い
・皮下脂肪が少ない方でも施術可能
・1回の手術で確実にボリュームアップが得られる
・左右差の調整がしやすい

それぞれのデメリット

脂肪注入のデメリット
・生着率に個人差があるため、術後の定着量を正確に予測しにくい
・ボリュームアップの幅に限界がある
・脂肪吸引部のダウンタイムがある
・複数回の施術が必要な場合がある

シリコンバッグのデメリット
・人工物を体内に挿入するため、長期にわたる経過観察と将来的な入れ替え手術が生じる場合がある
・シリコンバッグ特有の合併症やリスクがある
・術後の一定期間、激しい運動・上肢に動作制限が生じる

リスク・合併症

脂肪注入に関連するリスク

2024年のシステマティックレビューによると、自己脂肪移植の全体的な合併症発生率は約30%と報告されています。具体的な合併症の内訳として、嚢胞形成(27%)・脂肪壊死(13%)・感染(11%)・石灰化(6%)・漿液腫(4%)・血腫(3%)などが報告されています。
また、乳がん患者への安全性については、複数のシステマティックレビューで乳がん局所再発率との有意な関連性は認められていないとする報告がありますが、長期的なエビデンスはまだ蓄積中であり、乳がん既往のある方は専門医との十分な相談が不可欠です。

シリコンバッグに関連するリスク
① 被膜拘縮
インプラント周囲に生じる線維性被膜(カプセル)が増大・収縮・硬化する状態で、Baker分類(I〜IV度)で評価されます。美容目的の豊胸手術後の被膜拘縮率も文献によって差があり、切開位置・ポケット選択・シリコンバッグ表面形状(スムース vs テクスチャード)・細菌汚染防止策等が発生に影響するとされています。

② リップリング
インプラントの波打ち・シワが皮膚表面に浮き出て見える合併症です。特に痩せ型で乳房組織や皮下脂肪が薄い方、インプラントを筋膜下(乳腺下)に留置した場合に起こりやすく、テクスチャードタイプよりもスムースタイプのインプラントで多く見られます。上体を前傾させたり、横向きになった際に、脇や乳房の外側・下側で波状の凹凸が目立つのが典型的です。

③ ダブルバブル
乳房の下にもう一つの膨らみ(くびれ)ができ、乳房が二段に見える変形です。乳房下溝(バージスライン)の位置とインプラントの位置がずれることで生じます。

④ シリコンバッグの破損
コヒーシブジェルインプラントは破損しても内容物の拡散が起こりにくいとされますが、長期使用に伴うシェル劣化は否定できません。FDAでは、シリコンインプラント挿入後5〜6年で最初のMRIまたは超音波検査を行い、その後は2〜3年ごとの画像検査による破損確認を推奨しています。症状がある場合や超音波で評価が困難な場合にはMRIが推奨されます。

⑤ 感染・血腫・漿液腫
術後早期合併症として感染・血腫・漿液腫が生じることがあります。

⑥ 感覚障害
乳頭・乳房皮膚の感覚が一時的または永続的に変化することがあります。特に乳輪切開では感覚神経への影響が高いとされています。

⑦ 左右差
術後に左右のサイズ・形状・高さに差が生じることがあります。時間経過とともに馴染んでいきますが、個人差が大きく、修正手術が必要な場合もあります。

⑧ BIA-ALCL(乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)
BIA-ALCLは乳がんではなく、インプラント周囲に発生する非常にまれなT細胞リンパ腫です。テクスチャード(凹凸)表面インプラントを使用した方に生じる可能性があります。発症リスクはテクスチャードインプラント装着女性で数千人〜数万人に1人とされており、スムースタイプのインプラントのみでの確認例は現時点で報告されていません。
症状はインプラント周囲の遅発性の貯留液・腫脹・しこりなどで、多くはインプラント挿入後平均8〜10年で現れるとされます。早期発見・インプラントと被膜の完全切除により多くの症例で治癒が期待できるとされています。

それぞれのダウンタイム

脂肪注入の術後経過
・腫れ・内出血:バストおよび脂肪吸引部に術後1〜2週間程度の腫れ・内出血が生じることが多いとされます
・日常生活:軽作業は術後数日〜可能
・運動再開:有酸素運動・筋トレ等への本格的な復帰は術後4〜6週間程度が目安とされることが多い
・脂肪吸引部のケア:圧迫ガードルの着用を術後数週間継続することが一般的

シリコンバッグ挿入の術後経過
・腫れ・内出血:術後1〜2週間かけて軽減することが多い(内出血が出ない方も)
・痛み:特に大胸筋下・デュアルプレーン法では胸部の緊張感・筋肉痛様の疼痛が術後数日〜1週間程度続くことがある
・日常生活:シャワーは術後数日以内から可能
・運動再開:上肢を使う運動・重量物の持ち運びは術後4〜6週間は制限されることが一般的
・形の安定(Drop & Fluff):インプラントが適切な位置に落ち着くまで3〜6か月程度かかることがある

まとめ

脂肪注入とシリコンバッグ挿入は、豊胸手術として広く行われていますが、それぞれ異なる長所と短所を持ちます。脂肪注入は異物感がなく自然な仕上がりになりやすく、脂肪吸引部の痩身効果も同時に得られますが、生着率に個人差があり、大幅な増大には複数回の施術が必要になることもあります。

シリコンバッグは一度の手術で確実なサイズアップが可能な一方、被膜拘縮やリップリングなどの合併症リスク、将来的な入れ替え手術の可能性があります。

どちらが優れているかを一概に決めることはできず、ご自身の体型や希望するボリューム、リスクへの考え方などに応じて、信頼できる医師と十分に相談したうえで選択することが大切です。

written by

医師

吉田 直樹

NAOKI YOSHIDA

脂肪吸引や豊胸を中心に理想のボディライン形成に取り組んでいます。丁寧なカウンセリングを通して、一人ひとりに最適なご提案をいたします。
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